■第1話『情熱の彼方に』
「よーし、今日の練習はここまでにしよう。みんな、集合してくれ!」
3年生キャプテンのマ咲 ピー太郎(まさき ぴーたろう/通称マッピー)が号令をかけた。
私立 思春期特有の学園高等学校、通称「思特(しとく)」。
まだ創立して10年にも満たない新設校ではあるものの、文武両道を掲げ、野球部・サッカー部・水泳部・レスリング部等々、全国にも名を轟かす程のスポーツ強豪校である。
今、この体育館にいるバスケ部を除いては。
「お疲れ様です!これ、どうぞ!」
女子マネージャーがタイミングよくタオルを配る。
彼女の名はpon條 po乃香(ぽんじょう ぽのか/通称pon)。
紅一点の2年生女子マネージャー。
多少天然な部分もあるが、気配りもできて、明るい性格の彼女は、もはや思特バスケ部には欠かせない存在となっている。
「ponちゃん、サンキュ。・・・よし!みんな聞いてくれ。いよいよ高総体まであと1ヶ月を切った。今年こそ、全国目指して・・・」
そこまで言いかけた時、1人の男がそれを遮った。
「無理っしょ」
彼の名はファン持 ガツ哉(ふぁんもち がつや/通称ファンガツ)。
現在2年生だが、1年の入部時から即レギュラーの座を獲得したポイントガード。広い視野と、流れを読む能力と、芸術とも呼ぶべきパスセンスを持ち合わせた、ゲームメーカーだ。
「何だと?」
マ咲の希望に満ちた眼差しが一変した。
「夢見るのは勝手ッスけど、そういう熱い感じ?迷惑なんスよね」
「なんでそんな事言うんだ!お前は・・・お前は、誰よりもバスケが好きで、誰よりもバスケに熱い情熱を注いでるヤツだって、俺は知ってるぞ!」
マ咲は激しい怒りを覚えた。
決して才能に恵まれた訳ではなく、人一倍の努力でここまで上り詰めてきたマ咲にすれば、羨ましい程の才能を持っているのに、やる気のない発言をするファン持が許せなかったのだ。
「そうやって決めつけられるのも迷惑なんスよ」
「いいか?今年は彼も入ってきてくれたんだぞ!!」
マ咲の指差した先には、1人の1年生が立っていた。
彼の名は温度宮 差助(おんどみや さすけ/通称温度差)。
中学時代、「10年に1人の逸材」と称された全国区のスモールフォワード。その実力は高校レベルをも凌駕する程だった。
そんな彼が数多の強豪校からの誘いを蹴って、思特に入学してきたのだった。
「正直、チームメイトに頼るしかない自分が情けないが・・・でも、お前と温度差がいれば、全国も夢じゃないんだっ!!!」
「それでも無理ッスよ」
「何故そんな事言うんだ!力を合わせて頑張れば・・・」
「頑張れば?夢が叶う的なヤツッスか?現実見てくださいよ、キャプテン」
「お前、いい加減にしろよっ!!!!」
マ咲は、ファン持の胸ぐらを掴み、叫んだ。
「離せよっ!!!俺だって・・・俺だって全国行きてぇよ・・・」
「ファンガツ・・・」
「あんたの言う通りだよっ!!俺は・・・バスケが好きで好きで仕方ないんスよ・・・」
いつの間にか、ファン持の目には涙が溢れていた。
「でも・・・無理なもんは無理なんスよ・・・」
「そこまで言うなら・・・お前が無理だと断言する、その根拠を言ってみよろっ!!」
「根拠も何も・・・・・・・」
「俺ら3人しかいないじゃん」ババァーーーン!!!「去年の夏、3年が引退して、あんたが新キャプテンになった途端、20人もいた部員みんな辞めちゃったし!今年だって、温度差以外1人も1年生入ってこねぇし!明らかにあんたのせいじゃねぇッスか!!」
「た、確かに・・・原因はわからんが」
「はぁ?原因がわからない?それ、マジで言ってんスか?」
「あぁ、特に思い当たるフシは・・・」
「なら教えてやるよ!あんたが独断で決めちゃった改名だろーがよっ!!!」
「えっ?あの改名が原因?そ、そんな馬鹿な・・・」
体育館と校庭の間にある、各部の部室が連なる2階建てのプレハブ。
その1階真ん中に位置するバスケ部部室のドアの上。
ハピネスチャージ♡バスケ部「明らかにプリキュアじゃねーかっ!!!」
「そ、そうだったのか・・・これが原因だったのか」
「わたしはいいと思ったけど?」
pon條がきょとんとした顔で口を挟んだ。
「いい訳ねーだろっ!!部の名前にハートが入るとかアホじゃねーの?」
「でもさ、こんな言葉もあるよ!『マツコ批判、したい時にマツコなし』・・・ってね」
「・・・・・・・・・・・・・いや、さっぱり分かんない。上手い事言っただろ?的な顔してるけども!」
すると、黙り込んでいたマ咲が口を開いた。
「そういう事か!だからファンガツは、放課後教室で着替えて、直で体育館に来てたのか!!」
「いや、それは合ってるけども!!なんでさっきので分かるの???おい、温度差!お前はおかしいと思うだろ?」
「そうですね・・・たしかにハピネスチャージはちょっと・・・」
「そうだよな!そうだよなっ!!」
「やはり、学生の醍醐味と言ったら、女子の夏服から透けるブラ線。これだけは譲れませんね!」
「・・・・・・・・・・・・何の話だよっ!!!その意見は否定しないけども!」
1人だけ汗だくになっているファン持は、「もしかして俺の方がおかしいのか?」という疑念を必死に振り払った。
「まず名前を元に戻せ!!話はそこからだ!!!」
思特高校バスケ部。
マ咲 ピー太郎、ファン持 ガツ哉、温度宮 差助、pon條 po乃香。
バスケットに情熱を注ぐ4人の若者たちの物語が、今ここに幕を開けた。
つづく。
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