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『予定』3

―6―

2011年6月8日(水)








今日、
俺は一線を超えてしまう・・・

今日、俺がやろうとしているのは、
犯罪行為なのではないか・・・

男の脳裏には、
そのような感情も、わずかだが残っていた。

だが・・・





彼女の事を、もっと知りたい・・・







この、強い欲求を制止できる程、
確かで屈強な理性とまでは至らなかった。







午前7時40分。
男は、国分寺駅のホームにいた。

インディゴブルーのジーンズに茶色いチェックのネルシャツ、
そしてニットキャップを目深に被るという格好で、
ホームのベンチに腰掛けていた。

そう、
数分後、彼女が立つであろうホームのベンチに。





そして、彼女は現れた。
既に8人程並んでいた列の後ろに、彼女は位置取った。

さらに、その後ろに数人並ぶのを待ってから、
男は、列に加わった。

滑り込んできた電車に、
ホームに並んでいた行列が、どっと吸い込まれていく。
その流れに沿って、男も電車に乗り込んだ。

本当は、彼女のすぐ隣り、またはすぐ後ろに立ちたかったのだが、
今日の目的はそんな事じゃない。
後ろ髪を引かれる思いだったが、
男は敢えて彼女とは距離を取って位置取った。




彼女はどこで降りるのだろう。

いつもは彼女より先に、新宿で降りてしまう男にとって、
まずはじめに気になったのは、そこだった。

すると、彼女は代々木で降りた。

なんだ、俺の職場と一駅しか違わなかったのか・・・

たったそれだけの事で、
男は親近感を覚え、妙に嬉しくなった。

ハッと我に返り、
既に駅の階段の方へと消えかけていた彼女の姿を、慌てて追った。





代々木駅を出て、
ほんの数分の雑居ビルに、彼女は入っていった。

少し間を置いて、その雑居ビルに近付き、
入口脇の案内板を見たが、
各階にそれぞれ会社名の表示があり、
果たして彼女の会社がどの階なのかまでは分からなかった。

まぁいい、とりあえず場所は分かったんだ・・・

そう自分に言い聞かせると、
男は踵を返し、通りの反対側に目をやった。

駅から程近いという事もあり、
辺りには、飲食店やらコンビニやらが点在していた。
その中で、男が目をつけたのは、
真向かいの商業ビルの2階にある、カフェだった。
まだ時間が早いのが気になったが、
運良くそこは朝から開店している店で、男は安堵した。

通りに面したガラス張りのカウンター席に座り、
正面に例の雑居ビルを見据える。

監視するにはお誂え向きだ。
後は、ここで再び彼女が出てくるのを待つだけだ。

男は、
バッグから取り出したスケジュール帳の今日の欄と、
ガラス越しの風景とを交互に見やりながら、
運ばれてきた、やや渋めの珈琲を口にした。

昼休みに一旦出てくるのかなとも思ったが、
彼女が姿を見せたのは午後5時を少し回った頃だった。

雑居ビルの1階から、一気に人が出てきた事を考えると、
彼女の会社の定時は5時なのだろう。

同僚らしき女性社員には控えめに手を振り、
上司らしき恰幅の良い男性社員には礼儀正しく頭を下げる、
そんな彼女の振る舞いに、
男は一瞬、今日の目的を忘れ、ついつい見入ってしまった。

コーヒーを幾度となくおかわりするのみで、
朝から夕方まで、そこに陣取った男は、
店員達にはかなり訝しがられた。

しかし、男は気にする素振りも見せず、
いそいそと会計を済まし、店を出ると、
駅の方へ向かう彼女の背中を確認した。





職場の場所は分かった。
次は、いよいよ・・・彼女の家だ。




瞳は、彼女の後ろ姿を真剣に捉えながらも、
口元は、ニタリと不自然に歪んでいた。









―つづく―




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