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『予定』2

―4―

2011年6月2日(木)







男は前夜から一睡も出来ずにいた。

昨日の出来事が・・・
いや、ただの出来事ではない。
男にしてみれば奇跡といか言いようのないそれが、
今も頭の中にこびり付いて離れない。

冷静に考えれば、
それは、偶然という名の、たまたまの出来事でしかなかったかも知れない。
いや、むしろ、その確率の方が高いのではないだろうか。

しかしながら、
今、男は、そんな冷静さなど持ち合わせてはいなかった。

ふと時計に目をやると、
午前6時を過ぎた所だった。

いつもなら、まだ目覚めてすらいない、この時間に、
男はスーツに着替え終わっていた。

電車に乗る時間が待ち遠しい。

そして、
男はカバンにしまってあるスケジュール帳を取り出して、
今日の欄を確認した。







2011年6月2日(木)
 今日も彼女と目が合った。
 あぁ、たまらない。
 なんて素敵な瞳なんだ。







自分の書いた文字を何度も何度も指でなぞりながら、
その短い文章を、ボソボソと念仏のようにつぶやいた。





やっと電車に乗る時間が来た。
いつもと同じ車両の、いつもと同じドアにもたれかかる。

「次は~、国分寺ぃ~、国分寺で~す」

車内アナウンスに心が弾んだ。

そして向こう側の開いたドアから、
彼女は乗り込んで来た。

ドキドキしながら、
男はまだかまだかと彼女を眺めた続けた。

もうすぐ降りなきゃいけないと思い始めた頃、
東中野駅に差しかかった辺りで、やっと彼女と目が合った。





やっぱりだ。
あのスケジュール帳に書き込んだ『予定』は現実になるんだ。

男は、確信した。

いや、正しくは過信と言うべきだろうか・・・




















―5―

2011年6月7日(火)









2011年6月3日(金)
 今日もだ。
 今日も彼女と目が合った。
 完全に俺の事を認識してくれている。




2011年6月6日(月)
 また目が合った。
 もしかして、彼女は俺に気があるのか?
 今度、思い切って話しかけてみようか・・・









あの日以降、
毎日スケジュール帳に書き込んだ『予定』が、
ことごとく現実のものとなっていた・・・

男は、そう思い込んでいた。





そして、今朝、
男は、とてつもなく緊張していた。
スケジュール帳を持つ手が、自然と震える。





2011年6月7日(火)
 今日、目が合った時に、恐る恐る「どうも」と声を掛けた。
 彼女は「いつも同じ電車ですよね」と微笑んでくれた。
 想像通り、透き通るようなキレイな声だ。







昨日までは、
ただ彼女と目が合うのを待っているだけで良かった。

しかし今日は、行動を起こさなくてはならない。
あの女性に話しかけなければならないのだ。

どちらかと言うと女性経験の多い方ではない男にとって、
その使命は、なかなか容易な事ではない。

じわりと身体中に汗が滲むのが分かった。

しかし、
男は頭を大きく左右に振り、思い直した。
大丈夫、あのスケジュール帳に書いた事はその通りになるんだ。
男は何度もそう自分に言い聞かせた。






いつもと同じ電車の、同じ車両に乗り込んだ男だったが、
いつものドアにもたれ掛かるのではなく、
吊革付近に位置取った。

彼女に自然に話しかけられる位置に。







そして国分寺駅から彼女は乗り込んで来た。
案の定、彼女は男の隣りに立った。

男は、彼女の隣りで、こちらを向くのをじっと待った。
すると彼女は、男の異様な視線に気付き、
ハッと男の方を見た。

今だっ!

男は、意を決して、
ひと言「どうも」と、ぎこちなく微笑んだ。

すると彼女は・・・

怪訝そうな表情だけを残し、
混雑する乗客をかき分け、ひとつ向こうのドアの方へと、
去っていった。




男は、呆然とした。

何故だ・・・
何故なんだ・・・
「いつも同じ電車ですよね」と返してくれるんじゃなかったのか!





はしゃぐ気持ちも、ドキドキも、緊張も、
男の中には既に存在しなかった。

今、男の中にあるのは、
驚く程純粋な、彼女への変わらぬ恋心と・・・

そして、その気持ちをいとも簡単に踏みにじった彼女へ対する、
憎悪のみだった。








男は新宿駅で電車を降りると、
構内のごみかごにスケジュール帳を無造作に投げ捨てた。




何がいけなかったんだ・・・
何故、彼女は俺を無視したんだ・・・




男は、頭の中で、
ひたすら、その答えを探し続けた。



会社に着くと男は、
「急で申し訳ないのですが」と、適当な理由をつけ、
会社から明日の有給休暇を貰った。

そして、仕事帰りに、例の書店に立ち寄った。
一目散に文房具コーナーへと向かった男は、
あの時買ったのと同じスケジュール帳を手に取った。






アパートに着くなり、
男は日課となっている全ての事を取りやめ、
さっそく新しく購入したばかりのスケジュール帳を開き、ペンを執った。
明日以降のスケジュールを書き込む為に。

男は、男なりの答えを導き出していた。








2011年6月8日(水)
 俺は、もっと彼女の事を知らなければならない。
 今日一日、彼女の後をつけ回った。
 そして、色々な事を知った。

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    ・










―つづく―






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