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『予定』

―プロローグ―






あなたには、好きな人はいますか?
あなたには、嫌いな人はいますか?

あなたが、その人の事を好きな理由は何ですか?
あなたが、その人の事を嫌いな理由は何ですか?

ならば・・・

あなたは、自分は人から好かれてると思いますか?
あなたは、自分は人から嫌われてると思いますか?









自分勝手な基準で、人を好き・嫌いと判断し、
好きな人とは、もっと親しくなりたいと思い、
嫌いな人とは、極力接したくないと思い、
そのくせ、自分は誰からも好かれたと願う。

人間とは、
欲とエゴにまみれた、おぞましい生き物なのではないか。

そう考えた時、
自分も同じ生き物なのだと気付き、ゾッとした。





















―1―

2011年5月16日(月)







慣れというのは便利なもので、
あれだけ憂鬱だった通勤ラッシュ時の満員電車も、
今は何ともない。

それどころか、
今は、その状況下の中にささやかな楽しみさえ見つけている。






地方の私立大学を卒業して、
この4月から新宿にある製薬会社に務める男は、
月曜日から金曜日まで、立川駅から東京行きの通勤快速を利用していた。

毎朝同じ時間、同じ車両に乗り、
そして同じドアの所にもたれ掛かるように立つ。

そして、程なくすると、男に至高の時間が訪れる。





国分寺駅から、
毎朝同じ時間、同じ車両の、同じドアから、
その女性は乗り込んでくる。

そして、彼女もまた同じドア付近の吊革につかまる。






歳は自分とそう違わないだろう。
色や柄は違えど、
毎日スーツスタイルなのを考えると、
学生ではなく、社会人なのだろう。

男は、そんな事を想像しながら、
彼女の事を眺めていた。





そう、
男は、その女性に一目惚れしていたのだ。





最初の頃は、その女性を眺めるだけで幸せだった。

しかし、時が経つにつれ、
男の頭の中には、次第に新たな欲求がこみ上げていた。








もっと彼女の事を知りたい・・・







いや、
一目惚れした異性に、そのような感情を抱くのは、
男性だろうと女性だろうと、
ごくごく一般的かつ健康的な事だろう。


だが、
過剰なまでに膨らんだ、その欲求が、
男の身体を支配し始めるのに、それ程時間は要さなかった。

















―2―

2011年5月20(金)








男は仕事帰りに、会社近くの書店に立ち寄った。

店内をぐるりと歩き、
一通り品定めを終えた男は、一冊のスケジュール帳を手に取った。

春先なら、
この類は特設コーナーなどが設けられ、種類も豊富だったのだろうが、
5月も半ばを過ぎた今、文房具コーナーの一角へと追いやられ、
選ぶ程の種類もなかった。

男は、その少ない種類の中から、
1日1日の書き込む欄のスペースが一番大きいスケジュール帳を選んだ。

本当は日記帳の方が使い勝手が良いと思ったのだが、
男は敢えてスケジュール帳を選んだ。





電車に乗り、立川駅で降り、
そこから25分程歩いた所に、男のアパートはあった。

コンビニで買った夕食を食べ、ぼんやりテレビを眺めた後にシャワーを浴び、
後は寝るだけとなったのは、深夜1時を過ぎた頃だった。

そこまではいつもと変わらない日課だったが、
この日から、男には、寝る前にもうひとつ新たな日課が増えた。

それは、先刻買ったスケジュール帳への書き込みだった。

















―3―

2011年6月1日(水)







今朝、
男は電車の中で、ひどく興奮していた。




昨日までは、
一目惚れした女性を一方的に眺めているだけだった。

しかし今、彼女と目が合ったのだ。

男の胸は高鳴った。
自分の心臓が激しく脈打つのを、男は感じていた。

そして男は、
自分のカバンからおもむろに一冊のスケジュール帳を取り出した。

男が電車の中で日記帳を開くのは違和感があるだろうが、
それがスケジュール帳なら、
サラリーマンとしてごくごく当たり前の行動となる。

男が敢えてスケジュール帳を選んだのは、
そんな理由からだった。

そして男は、高鳴る気持ちを抑えつつ、
5月のページをめくった。








2011年5月17日(火)
 今日も彼女は素敵だ。
 地味なスーツだが、それがいい。


2011年5月18日(木)
 今日、彼女がメガネを掛けていた。
 今まではコンタクトレンズだったのだろうか。
 まぁ、俺としてはメガネの方が似合ってると思う。


2011年5月19日(金)
 そう言えば、彼女はケータイをいじらない。
 いまどき珍しい、真面目な女性なのだろう。
 好感が持てる。

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男は、その日その日の彼女の事を、
スケジュール帳に書きとめていた。

本来、スケジュール帳とは『予定』を書き込むものなのだが・・・






そして、男は6月のページをめくった。

目が合った事はもちろん嬉しいのだが、
男が興奮に打ち震えている真の理由は、これだった。








2011年6月1日(水)
 今日、初めて彼女と目が合った。
 そして彼女の顔を真正面から見たのも初めてだった。
 すごくドキドキした。

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    ・









そこには既に、今日の事が書き込まれていたのだ。

そう、
男は、その日あった出来事を書くだけでは物足りず、
数日前から、先の事を妄想で書き込んでいたのだ。

それだけではない。

なんと、
妄想で書き込んだ筈の『予定』が今日、その通り、現実となったのだ。








そして、
男が手にしているスケジュール帳の、6月のページには・・・

6月2日以降の欄にも、
『予定』がぎっしりと書き込まれていた。











―つづく―
















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