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『予定』10

―15―

2011年6月24日(金)








男は、
会社に向かう電車の中で、
今日も彼女が電車に乗って来た事を確認した。

午後3時。
「すみません。ちょっと体調が優れないので」と嘘の理由を告げ、
男は会社を早退した。

そして、男は、
代々木へと向かった。

例のカフェで、
窓際のカウンター席に座った男は、
珈琲を注文すると、
カバンの中身を確認し出した。

日中、仕事で使用した書類の他に、
スケジュール帳。
そして、それらをどけたカバンの底には・・・
果物ナイフが1本。






もしも、俺の愛情を理解してくれなかったら・・・
その時は、殺してしまえばいいんだ・・・






男は、いつかつぶやいた言葉を、
小さな声で反芻した。





午後5時10分。
彼女は目の前の雑居ビルから姿を現した。

珈琲1杯分の会計を慌てて済ませ、
男は後を追った。



彼女は、寄り道する事無く、
代々木駅へ行き、中央線に乗り、
国分寺駅で降り、徒歩でマンションまで行き、
エントランスから中へ消えていった。

男は道路を隔てた向こうから、
彼女の部屋を注視した。

辺りは、薄暗くなっていた。
しかし、いつまで経っても、彼女の部屋に明かりが点く事は無かった。

男は苛立った。
1時間以上が経ち、辺りは完全に闇に包まれた。
なのに、彼女の部屋には明かりが点かない。

もう・・・
行くしかない・・・

もし、鉢合わせたら、どうするのか。
第一声は何と言うのか。
どうやって彼女の気持ちを聴き出すのか。

何もプランは無かった。
だが、業を煮やした男の足は、
既にエントランスに向かって歩み始めていた。

エレベーターを5階で降り、
一番奥の部屋まで辿り着いた男は、
ポケットからスペアキーを、カバンから果物ナイフを取り出した。

鍵穴にスペアキーを差し込み、ロックを解除した男は、
そーっと中を覗いた。
しかし、人の気配は無かった。

目を凝らしながら、男は暗い廊下をゆっくり進んだ。

男は緊張した。
全身の毛穴からあぶら汗が滲み出るような感覚に襲われた。
自然と全身に力が入った。

しかし、どこを見回しても、
彼女の姿は無かった。

男は、何故だか、ほっとした。

段々と男の目も、室内の暗さに慣れ始め、
ベッド、チェストボックス、テレビ、メタルラックなど、
見覚えのある景色が飛び込んできた。




うっすらと窓から差し込む月明かりが、
ちょうどローテーブルの辺りを照らしているのに気付いた時、
男は、あまりの驚きに、硬直した。

ローテーブルの上には、
見覚えのある、1冊のスケジュール帳が置かれていたのだ。

どう言う事だよ・・・

男は、右手に持っていた果物ナイフを放り出し、
そのスケジュール帳を手に取った。

同じだ・・・

質感、重量共に、
男が愛用しているスケジュール帳と全く同じである事を、
両手の感覚が、脳に伝えた。

男は、床に座り、
そのスケジュール帳をパラパラとめくってみた。




2011年5月9日(金)
 3人目。今度こそはって思ったんだけどなぁ。
 やっぱり、この男も私の王子様なんかじゃ無かった。
 もう用無しだわ。

    ・
    ・
    ・
    ・

2011年5月25日(水)
 それにしても警察って何て無能なのかしら。
 いつまで経っても私に辿り着かないのね。
 あぁ・・・本物の王子様はどこにいるの?

    ・
    ・
    ・
    ・





3人目?警察?
何が何なんだ・・・
一体、どういう事なんだよ・・・





2011年6月1日(水)
 4人目がいた。
 電車の中で私を見つめてくれる男。
 今度こそ、本物の王子様かも。

    ・
    ・
    ・
    ・

2011年6月3日(金)
 今日も王子様は私だけを見つめてくれてる。
 きっと・・・
 あなたは本物の王子様なのよね?

    ・
    ・
    ・
    ・

2011年6月7日(火)
 今日、彼に声を掛けられたわ。
 嬉しかったけど、でも、
 本物の王子様かどうか確かめなくっちゃ。

    ・
    ・
    ・
    ・





こ、これって、俺の事・・・だよな?
俺が4人目って何だよ・・・

いつしか、男は震えていた。
女性らしい文字で書かれているのだが、
何故だか、このスケジュール帳の文章には、生気が感じられない。






2011年6月16日(木)
 彼は、私を守る為に犯罪を犯した。
 今度こそ、今度こそ、
 私が待ち侘びた、本物の王子様なのね。

    ・
    ・
    ・
    ・

2011年6月17日(金)
 どうして直接会ってくれないの?
 どうして私を奪い去ってくれないの?
 もしかして・・・お前も違うのか?

    ・
    ・
    ・
    ・

2011年6月20日(月)
 あぁ、私の王子様。
 私だけの王子様。
 早く私を奪い去ってちょうだい。

    ・
    ・
    ・
    ・







そして遂に、
男の視線は今日の欄へと進んだ。





2011年6月24日(金)
 ダメだ・・・
 こいつも違ったみたいだ。
 もう用無しだわ・・・





用無し・・・?
俺が、用無し・・・?

余りの異様な文章に引き込まれた男は、
それまで、自分の後ろに立つ気配に全く気付かなかった。

振り返ると、彼女がいた。
いつも男が電車で見とれていた表情とは打って変わって、
恐ろしい程無表情の彼女が、立っていた。

気が動転した男は、
どうして良いのか分からず、
何故か呑気に「ど、どうも・・・」と口走った。

彼女は無表情のまま、
右手を振り上げた。

男は、視線を上げ、
彼女の右手に目をやると、
そこには、先刻自分が放り投げた果物ナイフが握られていた。

男は、恐怖のあまり、
身動きをとる事が出来なかった。

すると、
不意に彼女が、いつもの美しい表情に戻り、
微笑みながら、ひと言つぶやいた。







「いつも同じ電車ですよね」






そう言い切るか言い切らないかのうちに、
彼女は右手を振り下ろした。

何度も何度も、
男の胸に果物ナイフを突き刺した。





薄れゆく意識の中、
男はいつだったか自分が書いた『予定』を思い出した。




 今日、目が合った時に、恐る恐る「どうも」と声を掛けた。
 彼女は「いつも同じ電車ですよね」と微笑んでくれた。
 想像通り、透き通るようなキレイな声だ。
 




カーペットを血で染め蹲る自分の姿を、
まるで虫けらでも見るかの様な表情で見下ろす彼女を前にして、
今、男は笑っていた。

そして、
最後の力を振り絞って、声を発した。







やっぱり、あのスケジュール帳に書いた『予定』は、
その通りになるんだ・・・
愛してるよ・・・愛してるよ、万里香・・・






more...

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『予定』最終回直前スペシャル

「こんにちは!フジテレビアナウンサーの伊藤利尋です」

「同じく、フジテレビアナウンサーの平井理央です」





伊藤「さぁ、いよいよ最終回を明日に控えた、大人気ドラマ『予定』
   今日は、最終回直前スペシャルと題してお送りしたいと思います」

平井「なんと今日は・・・
   出演者のみなさんにもスタジオにお越し頂いてます!」

伊藤「ご紹介していきましょう!
   まずは、主人公『男』役の、里見浩太郎さんでーす!」

里見「どうぞ、よろしく!」

平井「そして、ヒロイン『斎藤万里香』役の、八千草薫さんです!」

八千草「こんにちは!」

伊藤「続きまして、『40代小太り男』役の、オダギリジョーさんでーす!」

ジョー「・・・どうも」

平井「続きまして、天才外科医『木村順三郎』役、ニコラス・ケイジさんです!」

ケイジ「Hello!」






伊藤「・・・と言う、豪華な顔ぶれでお送りして参りたいと思うんですが、
   まずは、皆さんからひと言ずつ伺ってまいりましょうかね!」

平井「そうですね。それでは・・・主演の里見さん!
   ここまでを振り返っていかがですか?」

里見「まぁ、年齢はいいとして・・・
   現代劇っていうのが、あまり経験なかったからねぇ・・・
   難しかったですよ」

伊藤「なるほど!
   八千草さんは、ミステリアスな役だったと思うのですが、
   演じる上で気を付けた点なんかはあるんでしょうか?」

八千草「皇潤!!!」

平井「はーーーい、ありがとうございました。
   オダギリさんは、今回のドラマ、演じてみた感想は?」

ジョー「力石・・・」

伊藤「はーーーい、ニコラスさんはいかがでしたか?」

通訳(ゴニョゴニョゴニョ・・・)

ケイジ(yeah・・・yeah・・・OK!)
   「まずオファーを頂いた事自体が青天の霹靂で、
    初めての事ばかりで、疑心暗鬼になったりもしましたが、
    初志貫徹の心で臨みマシタヨ」

通訳「・・・だそうです!」

伊藤「はーーーい」








平井「それではここで・・・VTRをご覧頂きたいのですが・・・
   なんと・・・NGシーンを集めてみました!!!」

伊藤「どうですか?どなたが一番NGが多かったんでしょう?」

里見「僕は無いと思いますよ!絶対無い!」

八千草「皇潤!!!」

ジョー「力石・・・」

ケイジ「Fuck you!!!」




平井「はーーーい、それでは、VTRスタート!」



------------------------------------------------------------------



御法川「おっ!里見さん、大事なシーン、失敗しないでよ~」

(テロップ 俺の存在を知って欲しい)

里見「太秦の存在を知って欲しい・・・ゴメンナサーイ」

御法川「あちゃ~~~・・・もうちょっとだったのに!」



------------------------------------------------------------------



御法川「里見さん、次はがんばってよ!」

(テロップ 殺してしまえばいいのか)

里見「こらしめておやりなさい!・・・ゴメン!えへっ!」

御法川「も~う!でもカワイイからオジサン許しちゃう!」



------------------------------------------------------------------



御法川「おっ!闘将星野!投げた!
    おっ、内野フライ・・・
    へっへっへ、見たか!俺がちょっと本気出せばこんなもんよ・・・
    アイターーーーッ!!!って、おでこに当てちゃったよ・・・
    何やってんだよ、宇野!俺様は星野だぞ!ふざけるなよ!!!」



------------------------------------------------------------------





伊藤「はーーーい、こんな感じでしたーーー」

平井「それでは、ここで、もうひとつVTRを見て頂きたいのですが・・・
   なんと!
   原作者のファンキーガッツマンさんがインタビューに答えてくれました!」

伊藤「ファンキーガッツマンさんは、大のマスコミ嫌いで有名ですからねぇ。
   これは、大変貴重な映像ですよ!」

平井「それではご覧頂きましょう!VTRスタート!」











Q.今回、作品のドラマ化について、どんな心境ですか?

そうだね。
まぁ、元々ガッツマンは映像化なんて考えてなかったんでね、
オファーが来た時、実は何度もお断りしたんだよ、ガッツマンは。
ただ、フジテレビの亀山さんの・・・熱意っていうのかな?
それにガッツマンが負けちゃったって事かな。
こんな世の中だけどさ、ガッツマンは弱いんだよねぇ・・・

pro7.jpg
熱いソウルの持ち主ってヤツに?






Q.実際にドラマをご覧になった感想は?

まぁ、ガッツマンが小説を書く時ってのは、
場面場面の風景とか、そこに流れる風とか、空気の匂いとか、
そんなのを思い浮かべてから書き始めるんだけど・・・
映像を見たら、ガッツマンのイメージそのまんまだったんだ!
あれには驚いたね。
まぁ、ガッツマン自身、物書きとしてプロ意識を持ってるつもりだけど、
黒沢明ちゃんの監督としてのプロ意識って言うの?
いや、誇りと言うべきかな?あれは、アツかったねぇ・・・
ハッキリ言ってさ・・・

pro7.jpg
ガッツマン、脱帽って感じ?





Q.最後に、視聴者へメッセージをどうぞ!

『人気刑事ドラマシリーズ』、『終戦記念ドラマスペシャル』、
そして、尾道三部作の最終章『予定』が明日、いよいよ最終回を迎えます。
これまでガッツマンを支えてくれた、すべての人に感謝します。
ガッツマン自身、感慨深い思いはあるけれど・・・
でも、これでガッツマンのすべてが終わる訳じゃない!
いや!ガッツマン的には、まだスタートラインにすら立ってない!
これからもガッツマンはガッツマンらしく生きていくつもりだし、
みんながガッツマンを支えてくれるからこそ、
ガッツマンはガッツマンでいられる・・・ガッツマンはそう思う。
そして・・・

pro7.jpg
ガッツ、ガッツで、ガッツッツーー!!!











伊藤「はーーーい、以上でーす!」

平井「それでは最後に、出演者を代表して、里見さん!
   最終回に向けて、視聴者の皆さんへメッセージをお願いします!」




里見「はい!いよいよ、斎藤万里香との対面を果たすわけですが、
   果たして、どんな結末を迎えるのか!
   最終回は、15分拡大で・・・18分となっておりますので、
   たっぷりと『予定』ワールドをご堪能ください!」




グラサン「それじゃ、明日も見てくれるかなーーーっ?」

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」










―明日、最終回です―

『予定』9

―14―

2011年6月23日(木)







男は、無性に苛立っていた。

あの日から、
男が彼女のパソコンにメッセージを残した日から、
もうすぐ1週間が過ぎようとしていた。

しかし、
彼女は今日も、同じ電車の、同じ車両の、同じ位置に立っていた。
何かに怯える様子もなく、
彼女は、平然と佇んでいた。

週が明けた月曜日、
ひょっとしたら、この電車に乗って来ないのではないかと思ったが、
彼女はやって来た。

そして、
火曜日も、水曜日も、今日も、
彼女に変わった様子など全く見受けられなかった。




おかしい・・・

男は、自分の愚行を棚に上げ、
分析を始めた。

あんな事をされて、平気な女がいるだろうか・・・

いや!
そんな事はありえない・・・

だったら、どういう事なんだ・・・

もしかしたら、
彼女は、犯人が俺だと気付いているのではないか・・・




男は、
過去に、欲望や期待で押しやった、これまでの腑に落ちない点を、
もう一度、思い出し始めた。



俺が初めて電車で声を掛けた時、
気味悪がって避けた万里香は、
何故か次の日からも、同じ場所に立っていた・・・

そして、初めて彼女の部屋に侵入を試みた日、
万里香はベランダから俺を目撃した筈だった・・・

なのに、その直後、
万里香は何の警戒もする事無く、ジョギングへ出掛けた・・・

さらに、
そんな時に、万里香は部屋の鍵を落とした・・・

そして!
狂気とも言うべき、先週末の行為を受けて尚、
今、ここで、万里香は平然としている・・・




改めて振り返ると、
おかしな点が多過ぎる。

男は、混乱した。
いくら考えても、合点のいく答えが浮かばない。







程無くして、男は、
ひとつの決断を下した。







直接、会って確かめよう・・・
 それしか、無い・・・








仕事を終え、家に帰った男は、
スケジュール帳を開き、
まだ空欄になっていた、明日の『予定』を書き込んだ。







2011年6月24日(金)
 俺は万里香の家を訪れた。
 そして、直接万里香に会って、
 万里香の気持ちを確かめた。









―つづく―

『予定』8

―13―

2011年6月17日(金)







不思議と、男の中には、
昨日の出来事に対する罪悪感や恐怖感と言った感情は無かった。

むしろ、彼女の事を守ってあげたと言う、
誇らしげな気持ちで一杯だった。

その、歪んだ愛情が、
男を、躊躇いなく犯罪を犯す事の出来る魔物へと変貌させていた。







夕方5時きっかりに仕事を切り上げた男は、
寄り道せず、真っ直ぐ新宿駅に向かい、
そのまま高尾方面へ行く中央線に乗り込んだ。

そして、
立川ではなく、国分寺で降りた。

ホームに降り立った男は、
スケジュール帳を取り出し、今日の欄を確認した。

今日の欄だけは、いつもと違い、
あの日、彼女の部屋のカレンダーから書き写した内容が、
箇条書きで並んでいた。





2011年6月17日(金)
 小島さん送別会。
 19時、新宿アルタ前集合。





男は、
この日を首を長くして待ち望んだ。

夜の7時に新宿で待ち合わせ。
そこから飲み始めたら、終わるのが9時前後か。
一次会で帰るとしても、マンションへ着くのは、
午後10時・・・

そこまで計算立てた男は、
ホームのアナログ時計に目をやった。

あと4時間はある。

男は、急ぎ足で彼女のマンションへ向かった。











医療用ゴム手袋をはめ、スペアキーを使い、侵入した男は、
まず、彼女の部屋をぐるりと見まわし、
前回侵入した時と同じ風景に、この上無い安らぎを感じた。

今日は、たっぷり時間がある・・・

男は、
前回やりたくても出来なかった事、
クローゼットの中身の確認を始めた。

ハンガーパイプには、様々な洋服が掛けられていたが、
あまり派手な物はない。
その点に、男は好感が持てた。

そして、中棚には、
引き出しタイプの半透明の衣装ケースがあった。

男が興奮に震える手で、その衣装ケースを開けた。

期待通り、
中には綺麗に畳まれた下着類が並んでいた。

ここにもまた、
派手な色や、過激な形の下着は無く、
男は「俺の好みを分かっている」と、何だから嬉しくなった。

その中から、1枚のパンティーを取り出した男は、
そのまま彼女のベッドに身を投げた。

ほのかに残るシャンプーの香りは、
男の鼻孔のみならず、下半身までもを刺激した。

男は、彼女を抱いていると錯覚し、
堪らず、ゴム手袋をはめたままの手で自慰に耽った。

自ら持ってきたポケットティッシュに、精液を出した後、
男はそのまま、ぼーっと天井を眺め、
彼女を初めて見た時から、これまでの事を振り返った。





今では、男は、
彼女のフルネームを知り、
彼女の職場の場所も知り、
彼女のマンションも知り、
彼女がどんな下着を着けているのかさえも知っている。

一番最初に抱いた、
「彼女の事を知りたい」という欲求は、ある程度満たされた。

しかし、
人間とは欲深い生き物で、
男は、新たに芽生えた欲求に気付いた。







万里香に、俺の存在を知ってほしい・・・







多少の不安もあったのだが、
犯罪を犯すのも厭わなくなった男にとって、
その思いを打ち消すのは、他愛もない事だった。

何かしら自分の痕跡を残して行こうと決断した男は、
ベッドから身を起こした。

ふと外を眺めると、
日は暮れかけ、所々の窓に明りが灯り始めていた。

その時、
男の視界にある物が映った。

ベッドの脇にある、胸の高さ程のチェストボックスの上に、
1台のノートパソコンが置かれていたのだ。

男は、そのノートパソコンを取り上げると、
床に座り直し、ローテーブルの上にそれを置き、起動スイッチを押した。

薄暗い部屋の中、
モニタの発光だけが、男の顔を不気味に照らした。

男は、
デスクトップに並んだ様々なアイコンを次々クリックして、
彼女のノートパソコンの中身をチェックしていった。

ネットの閲覧履歴も、メールの履歴なども、
これと言って特に気になる点は無かった。




そして・・・
最後に男は、大胆な行動に打って出た。

ワードソフトの画面を立ち上げ、
カチャカチャとキーボードを鳴らし、
シャットダウンせず、そのままにし、
更に、
先刻、自分の精液を拭ったティッシュを、
ノートパソコンの横に置き、
部屋を後にした。





男が去った仄暗い部屋では、
ノートパソコンの青白い画面だけが浮き上がっていた。







今日は楽しかったよ。
 また会いに来るからね、万里香。








―つづく―

『予定』7

―11―

2011年6月15日(水)








2011年6月13日(月)
 あと4日。
 あと4日我慢すれば、また万里香の部屋に行ける。
 今度は何をしようか・・・



2011年6月14日(火)
 あと3日。
 あぁ、万里香・・・待ち遠しいよ。
 今度はゆっくりさせてもらうからね。



2011年6月15日(水)
 あと2日。
 万里香、時間が経つのって長いものだね。
 君を愛すれば愛する程長く感じるんだろうね。









あの日以来、
本当は毎日でも彼女の部屋に侵入したい男だったが、
焦って行動して、彼女と鉢合わせなんて事になっては困る。
そう考えた男は、
週末が来るのをじっと待った。





そして、男は、
相変わらず、同じ電車、同じ車両の端に立ち、
相変わらず、同じ電車、同じ車両に乗り込んで来た彼女の姿を捉えていた。

美しい。
万里香は誰よりも美しい。

そう実感した男は、
次に、ぎゅうぎゅう詰めの電車内の人々を見回し、
優越感に浸った。

そこの偉そうなサラリーマンも!
そこの参考書を片手に持った学生風の男も!
そこのギターケースを背負ったチャラチャラした男も!

お前らは誰も、彼女の事を知らないだろう?
俺は知っている!
お前らは誰も、彼女の部屋に入った事がないだろう?
俺は入った事がある!

思わず笑い声が出そうになるのを堪え、
慌てて左手をズボンのポケットに突っ込み、
あの日以来、常に持ち歩いている淡いピンク色の戦利品を握りしめた。






あぁ・・・万里香・・・
 俺だけの・・・万里香・・・














―12―

2011年6月16日(木)






2011年6月16日(木)
 あと1日。
 いよいよだね、万里香。いっぱい愛し合おうね。
 僕らの恋は誰も邪魔できないよね。









男は毎朝、テレビの天気予報を確認していた。

「今日の降水確率は0%、傘の心配は要らないでしょう」

画面の中、
気象予報士は穏やかな笑顔で、確かにそう言っていた。

しかし、
男がちょうど立川駅の構内に入った所で、
どしゃぶりの雨が急に降り出した。

万里香は、もう駅に着いたかな・・・
濡れてなきゃいいけど。

そう思っていたのだが、
案の定、彼女はずぶ濡れで国分寺駅から電車に乗り込んで来た。

困惑の表情のまま、
ハンカチで髪を拭く彼女のブラウスもまた雨に濡れていて、
うっすらとブラジャーの肩紐が透けていた。

男は、遠目から見えた、その一瞬のセクシーさに興奮した。
だが、次の瞬間、男は怒りに打ち震えた。

彼女の真後ろに立っていた40代くらいの小太りの男が、
彼女の背中から肩を、何度も何度も舐め回すように眺めていたのに気付いた。




万里香の事を、そんな目で見てもいいのは、
この俺だけだ。

男は、
相変わらず彼女を厭らしい視線で眺める男を睨み続けた。

ぶん殴ってやる・・・

そう思って、一歩踏み出した瞬間、
車内アナウンスが吉祥寺駅に到着した事を告げた。

すると、その小太りの男は、
もっと見ていたいと言わんばかりの名残り惜しそうな表情を残し、
吉祥寺駅のホームに降り立った。

すると・・・
後を追うように、男も吉祥寺駅で電車を降りた。












中央線と井の頭線とが乗り入れる吉祥寺駅は、
新宿駅程ではないとは言え、
この時間帯は、ここも、相当数の利用客でごった返す。

ほとんど無言で、機械的に流れる人の波。
その日常風景を、幾つかの悲鳴が引き裂いた。




「きゃーーーーーっ!!!」





吉祥寺駅構内のとある階段、
人々の動きが一瞬止まった。

その階段の一番下には、
一人の男性が額から血を流して倒れていた。
40代くらいの小太りの男だ。

階段の上から、転倒したらしい。

駅員に事情を話す男性、
恐怖に震え、立ちすくむ女性、
巻き込まれたらしく、肩などを押さえて蹲る人々。
大声を張り上げ指示を出す駅員達。
その周りを取り囲む野次馬達。

しかし、
その中に、男の姿は無かった。



程なくして駆けつけた救急隊員によって、
小太りの男が運び出されると、
吉祥寺駅は、いつもの風景をすぐに取り戻した。










―つづく―
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